街角の何気ない路地や、ごくありふれた農村の田畑などで見かける「石垣」。現代のように重機などもない時代。「石」という運搬や加工のむずかしい素材を使って、人の手で一つひとつ積み上げられたであろう石垣には、見る者の胸を打つ、独特の美しさや力強さがあります。
家を囲うため、川や池の水をせきとめるため、山肌の限られた土地に農地を拓くため……。石垣が必要とされた背景はさまざまあれど、そこには必ず、「人の暮らし」があったことでしょう。そして、石という素材の性質上、基本的にはその土地、その場所にもともとあったもので、それらは作られたと想像されます。そのため土地によっては、たとえば、脆く崩れやすい石しか手に入らなかったかもしれませんし、垣を築く地面の状態が好ましくない場合もあったかもしれません。
現代を生きる私たちが、何かを作ろうとするとき――私たちは今や、地球の裏側からでも必要な素材を容易に集めることができ、自然環境でさえも、都合の良いように効率の良いように、作り変えることができてしまいます。
けれども昔の人たちは――「そこにあるもの」で、そして、「その土地・その風土の中」で、ものづくりをしていたはずです。それは必ずしも好ましい条件や環境ではなかったかもしれませんが、そんな中でも人は……いえ、“だからこそ”人は、知恵をしぼり、工夫をし、少しでも使いやすく、少しでも美しく……と創意を重ねたのでしょう。
「石垣」の美しさに魅入るとき。私たちがほんとうに心を動かされているのは、限られた条件の中でもあきらめることなく、少しでも自分たちの暮らしをよきものにしようと知恵や工夫を凝らした、先人たちの姿勢そのものではないでしょうか。そしてその姿勢は「ものづくり」の原点であり、リンネのリネンである「自分たちの暮らしは自分でつくる」という生き方そのものではないでしょうか。
そして、もうひとつ。石垣の面白さは、かたちや大きさの違うさまざまな個性の石が、しっかりとかみ合い、支え合って、 形を成していること。どんなに小さな石一つが欠けても崩れてしまいますし、表には見えない部分でひっそりと、ほかの石を支える石もあるでしょう。
「ナガサキリンネ」というチームに。「長崎」というまちに。さまざまある、かたちや大きさの違った個性。その一つひとつが有機的につながり、めぐり、支え合い……このまちで生き、暮らしていく喜びやしあわせを感じられるきっかけをつくることになればと願っています。
ナガサキリンネ 実行委員一同
メインビジュアル・坂本奈津子