生業をつづけるための日々の営み -「あめつちの日々」上映会



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会社員時代に沖縄への出張も多かったので、同僚たちを頼って、頻繁に沖縄を訪れていた時期があります。到着ロビーの自動ドアを出た瞬間、じっとりと重い空気が顔に吹き付け、目の前をかりゆしウェアを着た人がゆるゆるとカートを集めているのを見ると、フゥーと体中の力が抜け、さぁ、みんなに会いにいこう!そんな沖縄の旅を年に何度も繰り返していました。

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きっかけは忘れてしまいましたが、気づいたら私はカステラを手土産に、米司工房に通うようになっていました。15年ほど前は、工房周辺は携帯電話の電波も届かず、日が暮れると街灯もなく辺りは真っ暗。そんな場所で少し薄暗い工房で、親方と一緒に、本土から来た同じ年頃の人たちが静かに仕事をしていました。釉掛けをする人、焼きあがった皿の底を磨いている人、、、外には瓦に土が干してある時もあり、登り窯の脇に積み上がった薪を見ながら、もうすぐ窯焚きなんだよと教えてくれたりしました。その土地の土からうつわをつくる。開窯以来繰り返されてきたその一連の仕事を、今は彼らが続けている。環境に調和し、今後も変わらないであろう彼らの仕事場は、心に風が通り抜けて行くような気持ちのいい光景でした

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お茶でもしようかと親方から声を掛けられ、奥のテーブルに座った職人たちは、人見知りばかりで口数は多くなかったけど、彼らの目は静かに落ち着いていて、迷いがないように見えました。いつも冗談ばかり言っている親方から茶化されると、恥ずかしそうに笑い、お茶を飲み終えると、一人二人とそれぞれの持ち場に戻っていきます。みんなで作ったお昼ご飯を食べ、同じ時間にお茶を飲み、時折外から来る人たちと話す。工房の仕事が終わったら、自分のために轆轤に座り、夜遅くまで練習する毎日。大きな組織でがむしゃらに働いていた30代に入ったばかりの私は、自らの意思で情報やモノから離れ、家族のように暮らし働きながら、満ち足りた表情で笑う、同世代の陶工たちの日常を目の当たりにして、こんな選択肢があったのかと、胸がざわついたのを覚えています。

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それから時間が経ち、仕事でもお付き合いさせて頂く様になった親方に、久しぶりに電話をしたのは昨年の暮れのことです。「今度ね、北窯の映画ができるんだよ。長崎でも観てほしいなと思ってる」と教えてくれたYouTubeの予告編で流れてきたのは、今でも変わらず、あの赤い土の上でみんなで土作りをするたくさんの若者たちの姿でした。25年以上、沖縄の食文化に合わせたうつわを作り続け、日本だけではなく今や海外でも知られるようになった「やちむん」。次の世代につなげるために、厳しい表情で材料探しに奮闘し苦悩する親方。3年という長い時間をかけてカメラを回し続けた川瀬監督が写していたのは、力強くも儚く、止まることのできない生業を続ける生々しい姿でした。

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4年前の夏、ナガサキリンネのスタッフが初めて顔合わせをした時のことを今でも覚えています。「長崎でものづくりの人が、当たり前に暮らせる日が来てほしい」「長崎の人に長崎でつくられたものを使ってもらうこと、それが商売として成り立っていけたらいい」工芸作家や職人の口から出てきたのは、彼らの営みを続けることへの危惧とシンプルな願いでした。今自分たちが暮らす長崎のまちで、観光客ではない、このまちの人たちとつくる商売のありかたは何なのだろう。そして、職人でない私もまた、その答えを探しているひとりです。

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北窯の奥の親方の友人の窯へ案内してくれました。いつも親方は読谷村全体のものづくりの事を考えている。

「自分たちの暮らしは自分でつくる」は、ナガサキリンネの指針となる大切な言葉です。映画「あめつちの日々」は、決してこの言葉に答えを教えてくれる映画ではありません。でもだからこそ私はナガサキリンネでたくさんの方に観ていただいて、一緒に考える時間が作れたらと思い、マーケットの出店者の方たちにも観ていただけたらと、リンネ当日ではなく1週間前のプレイベントとして上映する事にしました。10月30日の上映会では、2回の上映の間に、川瀬監督と長崎民芸協会の庄司宣夫さん、ナガサキリンネスタッフのトークの時間をつくりました。映画の事、ものづくりのことをなど、みなさんで語り合う時間になれたらと思っています。そして当日は、長崎民芸協会のお手伝いをいただき、北窯 松田米司工房のうつわも受付にて展示販売しますので、実際に手にとって、やちむんの魅力を感じていただけます。

沖縄で私が長崎から来たと知ると、おじいやおばあたちから、口では言わないけど(あなたもあの戦争で大変な目にあった町からきたんだね)という、なんとも言えない優しく包み込むような眼差しを向けられたことが何度もあります。奥まった瞼の奥の、黒目の大きな瞳で、目の前にいる人の痛みを知ろうとする、相手の苦しみを想像する大きな心を持つ、あの島の心優しい人たちが、私は本当に大好きです。

ナガサキリンネ 松井 知子

「あめつちの日々」上映会
10月30日(日) 12:30-14:20 15:30 -17:20 2回上映
映画本編92分  各上映前に監督による舞台挨拶が含まれます(20分程度を予定)
トーク14:30~ 会場内にて 川瀬監督・庄司宣夫(長崎民芸協会)・ナガサキリンネスタッフによるトーク
映画HP:http://essay.tokyo/tsuchi/

特別販売
北窯(松田米司工房)のうつわを、上映日とナガサキリンネ当日11 月5日・6日に本部にて販売いたします。また、4月の熊本・大分震災にて大きなダメージを受けた「熊本国際民藝館」の支援のため、当館売店の民芸品も合わせて販売いたします。尚、熊本国際民藝館の売上は全て寄付させていただきます。

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北窯で修行した夫婦が開窯したと聞き、北部まで足を運んだ。

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「田村窯」のやちむん。これまで北窯の4つの工房から多くの陶工が独立し、島の内外で窯を開いている。