「今日はよか風やけん、はよ揚げに行くばい!」挨拶も早々に、風頭公園の階段を足早に駆け上がる小川さん。その後ろを歩く背の高い人たちは、歩幅が広いせいか全く急いでいないように見えます。今年はこの山によく登るものだとぼんやりしていると「ほら松井さん!見んね!」とまた声が。その声の隣では、オランダ人たちが、遥か上空で小さく点になって揺れるハタに向い、歓声をあげていました。オランダ在住の日本人女性から声をかけられ、アムステルダムで長崎のハタを揚げたいですねと意気投合したのは、前回のナガサキリンネの会場。そして今年の2月、彼女の企画による〈MONO JAPAN〉と名付けられた日本の工芸を紹介するイベントで、空に舞うハタを見上げて声をあげているオランダの人たちを写真に収めていました。
MONO JAPAN以来、工芸や芸術に携わるオランダの人たちと、九州で会う機会が増えました。山や川を越え、彼らと共に訪ねたのは、時代や気候風土に翻弄されながらも受け継いできた自らの仕事について、誇らしげに語る伝統工芸の親方たち。そして地域の産業を世界に繋げようと奮闘している若い世代の人たちです。材料の香りや機械の音に包まれたものづくりの現場で、同じように手工芸が消えている自国の現状を悲しげに語りながらも、次々とアイデアを出していくオランダの人たち。そんな現実的で開放的なオランダ人の気質は風通しが良く、肩書きなど関係なくつながりを作り革新していくスピードには驚かされるばかりです。
ところで、風頭山で小川さんと一緒にハタ揚げをしたのは、〈Indigo:Sharing blue〉というプロジェクトに参加するために来日した4人のクリエイターたち。江戸時代に出島から渡った藍染めを、再びオランダで工芸として育むためのチャレンジがはじまり、その成果をナガサキリンネで展示する事になって訪ねてきたのです。いつものように長崎弁でハタの事を熱く語る小川さんを「He is a real craftman!」と称えるオランダ人。彼らの間には「ものづくり」という共通の言葉がありました。この夏、九州の藍染め工房で染めた彼女たちの素材が、オランダで作品となり、出島に戻ってきます。ふたつの国でつくり上げた藍色の世界が、この秋復元されたばかりの出島の空間に広がります。
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ナガサキリンネ 松井知子