橋口剛|HAG環境デザイン






私達が手がける教会建築とゆかりのある建築家W.M.ヴォーリズ


「じゃぁ、HAGは「住」担当ということで!」。 そんな松井さんの言葉ではじまったナガサキリンネでの「住」のコーディネート。スタッフの中で、唯一建築を生業としているものとして、自然の流れかな、と思いつつ、さて、どんな企画にしようかと考えはじめた私たちでしたが、美術館に実際の建物を持って行く訳にもいかず、ただ、写真の展示だけでは、何を伝えられるか心配で、まるで広大な海のような深みと広がりをもつ「住」という言葉の前で、しばらく企画が進まずにいました。そんな中、四方山話の最中に、私達が手がける教会建築とゆかりのある建築家W.M.ヴォーリズについて話をしていたときに、「ヴォーリズの企画展は?」と問いかけられました。あまりに突然の問いかけに、正直焦りましたが、ヴォーリズの成したこととナガサキリンネとがどこか重なるように感じられ、その企画を進めることにしました。時代を超えて愛さる建築を造り続けたこと。琵琶湖のほとりの寒村を拠点に日本のみならず世界でも活躍していたこと。建築のみならず、人々の暮らしを豊にするような多くの事業を手がけたことなど、ヴォーリズのエネルギッシュで魅力溢れる生涯は、死後半世紀近くが経った今なお、長崎でモノづくりをする私たちに、多くの示唆と励ましを与えてくれました。


様々なことに思いを巡らせて


とりわけ、ヴォーリズの住宅が、築後100年あまりが経過した今でも、世代を超えて受け継がれ、愛されていることは、住宅のあり方への示唆を与えてくれます。住宅の建築は、本来、それぞれの家族の暮らしをつくる仕事といえます。ですから、住宅をプランニングする際には、様々なことに思いを巡らす必要があります。その土地の歴史や風景、住まい手の個性や暮らし、光や風、緑、そして時の流れ… 考えるべきことがあまりに多く、たいへんな仕事でもありますが、それらの条件を有機的に捉え、一つの形として作り上げる。これが、住宅建築の魅力、そして喜びでもあります。けれども、家づくりをとりまく環境は、今の社会の縮図となっています。効率やスピードが重視され、住宅はもはや工場で作られたパーツを組み立てるだけのプラモデルのようで、職人の特別な技術は必要なく、全国どこででも同じ表情の住宅が作られています。そのような家づくりが常識となる中で、手間と時間をかけた建築は、贅沢なものと思われているようです。けれども、一つ一つの思いや条件を重ね合わせ、確かな形のある住宅をつくりだすためには、一定の時間を必要とします。その過程には苦労もありますが、要した時間や労力は、決して無駄になるものではありません。


主体性をもってモノゴトを選び取る、その先に新しい世界がある


ナガサキリンネは、そのような思いをもつ作り手の集まりです。分野は違う作り手たちですが、一人一人の思いを仕事の糧としています。リンネの「めぐりつながるわたしのくらし」というサブタイトル。この「わたし」について思い起こされるのが、「ここが世界の中心です」というヴォーリズがことあるごとに使っていた言葉です。「主体性をもってモノゴトを選び取る、その先に新しい世界がある」。というメッセージが込められています。ナガサキリンネに集う一人一人の思い、そしてそのつながりの先に、この街の新しい未来が予見されます。



9月21日 HAG環境デザイン 橋口剛



HAG環境デザイン
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