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赤い出島
ナガサキリンネには1年前に伏線がある。3.11の震災を目の当たりにした当時の僕は、List:松井さんから、急遽チャリティーバザーを開くと相談を受け、グラフィックデザインを生業としている身として協力を即決した。打ち合わせの場でアイデアが浮かび、デザイン・印刷を施し、相談を受けた翌日には告知フライヤーを納品した。そのアイデアとは、扇型の出島を緊急の意味を示す色・赤に染めたものだった。あのバザーの事を話すと、神がかっていた。と口々に結ばれる。人と物が短い準備時間の中で、一瞬で集い、そして賑わった。僕はあの経験を通して、普段目にしない長崎の潜在的な力を感じた。結局この時に集まった作家やスタッフが、後のナガサキリンネの骨格を成すこととなる。印象深い出来事のひとつだ。
前夜
話はナガサキリンネ前夜へ。僕は関わっている最中も、大きな事をやっている自覚はほとんど無かった。気心の知れた仲間達だったせいもあるし、どれくらいの反響があるかなんて、その誰もが分かっていなかった。ただ開催の三月に歩みを進めるに従って、周りから伝わる熱と手応えを感じ始める。デザインさせてもらったロゴマークが受け入れられたのは大きかった。イベントの顔を作る大事な仕事だったが、変な気負いは無かった。それは「格好付けるのは格好悪い」という微妙な感覚を共有しているメンバーだったので、心置きなくデザインを投げかけられたからだと思う。結局完成までには100案以上を要したが、やりがいのある仕事だった。
美しい日々
イベント二日間の話は他の人に譲るとして、僕はナガサキリンネ本の事を少々。本作りの経験の無いメンバーが大半の中、それぞれが文章を書き、写真を撮った。今、出来上がった本を手元でめくると、その時の空気や、会話の端々、光の具合なんかを思い出す。ありのままを何気なく伝えられたら、それが一番自然で馴染むだろうなぁとデザインを施したが、「ナガサキリンネらしさ」はこの本にうまく漂っている。いつでもあの日々に戻れる感じ。イベントを終えてしばらくの間は、なんだかぼーっとしていた。半年以上前から走り出していたので、頭と身体が急にストップをかけられたみたいだった。でも振り返ると、走り抜けた時間こそ、美しい日々だったと思える。
嬉しい贈り物
初夏に小包が届いた。イベント開催前に産まれた息子を祝ってのものだった。思わず夫婦で歓声を挙げてしまった。木工品、器、バッグ、椅子…、「めぐりつながる、わたしのくらし。」この言葉を実感した瞬間だった。作り手の顔が見えるモノに囲まれる暮らしは、随分と心地良い。自然と大事にするのは、その作り手を想うからこそ。たとえモノは朽ちたとしても、こころをそばに感じていられたら、それだけで人は豊かに生きていける。
2012.8.31 古賀正裕
古賀正裕デザイン
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