■
■
「自分たちの暮らしをつくるのは自分である」
この言葉をはじめて耳にしたとき、なんと創造的な発想の言葉だろうとワクワクする自分がいました。こういう考え方が大好きだからこそ私はナガサキリンネのスタッフをしているのだと思います。
ナガサキリンネ当日、私はこの理念を形にしたくて「感覚コラージュ」というワークショップを友人と一緒に企画しました。いろいろな素材に触れ、柔軟な視点でものをとらえ形にしていく喜びを味わってほしい。さらにはそういう視点を日々の生活の中に持ち帰って生かしてもらえたらという願いを込めて準備をしてきました。お陰さまで本当にたくさんの方にご参加いただき心から感謝しています。一時とても混雑していたにも関わらず隣同士で素材や道具を貸し借りしたり、お互いの作品に触発されて自然と会話が生まれたり……そうやって生み出された作品はどれも本当に素晴らしいものばかりでした。今思えば作品を生み出す「人」そのものが魅力的な方ばかりだったからなのだとわかります。
このまちにはこんなにもたくさんの素敵な人たちがいたのかと気づき、誇らしく嬉しくなりました。同時にひとりひとりが今よりもっと満ち足りた気持ちで暮らせるようになって、そういう個人がつながっていくことで、このまち全体はもっと魅力的なものになりそうだとも思いました。そして「ナガサキリンネ」がみんなとつながるための場になればよいなと。
ご来場いただいたみなさま、興味を示していただいたみなさま、本当にありがとうございました。
ロンドンから長崎を想う日々
さて、ナガサキリンネの翌月、私はイギリスのロンドンへ向けて出発しました。かねてから海外にしばらく住んでみたいという想いもあり半年ほど滞在することにしたのです。今は語学学校に通いながら、アートスクールの短期コースを何本かとって日々を過ごしています。
その学校やまちで出会う人たちに「日本のどこから来たの?」と尋ねられるわけですが、「長崎からよ」とこたえると、老若男女、国籍を問わずみんな必ず「あ、ヒロシマ・ナガサキの、あのナガサキね!」と知っています。こちらにきてから改めて「ナガサキ」が世界的に重要な場所であることを強く感じます。
みな今の日本がどこへ向かっているのか(フクシマのことも含めて)興味をもっていろいろと尋ねてきてくれ、さらには彼らの意見も聞かせてくれます。日本の長崎から来た人間として何か使命感のようなものを感じずにはいられません。いや、むしろ使命感をもって私は私の立場で意見を言って行くべきなのだとも思います。そして彼らとこういう話ができるのだから未来は明るいという気持ちになります。
さて、ロンドンは経済面では大きな街ですが、実際には小さな街。人と人の距離がとても近いというのが数ヵ月過ごしてみての所感です。例えばバスに乗るとき、マーケットやお店で何か買い物をするときには必ずお店の人に挨拶したり会話したりするので、まるで地元にいるときのような感覚が蘇ります。些細なことですが、こういうちょっとしたコミュニケーションが思いのほか心地よく嬉しいもので、結局どこに住んでも誰かとそして社会と「つながっていたい」ものなのだと、自分の気持ちを再確認しています。
こちらではフラットシェアをして住んでいます。近年日本でもシェアライフが再び注目されていますが(もっとも昔は日本でも当然だったのでしょうけれど)、お金のない若者もひとり暮らしの年配の人もみんなシェアして暮らしています。そしてみんな楽しみ上手です。例えばエリザベス女王即位60年のダイヤモンドジュビリーではあらゆる場所でストリートパーティーが開かれました。私が招いてもらった袋小路の小さなパーティーには長いテーブルと椅子が並び、ご近所同士がごはんを持ち寄りお祝いしていました。そして印象的だったのは、誰かがギターを弾き出したとき子どもたちが踊りだし、つられて大人たちも踊りだしたという……そんな場面。ある人の言葉を借りるなら彼らはみなあらゆることに関して「踊り上手で、踊らせ上手」です。こういう楽しい要素はどんどん真似していきたいなと素直に思います。
ちなみに、今住んでいるのはロンドン東部のハックニー界隈。実はここ10年ほど前までは決して治安のよいエリアとはいえなかったとか。しかし、クリエイティブな仕事をする人やアーティストたちが家賃の安さを求めて移り住んできてからは少しずつ空気が変わり、もちろんオリンピック開催の中心地ということもあって、見事に変化を遂げ今もなお面白くなり続けているというエリア(もちろん表面下では様々な問題を抱えているのでしょうけれど)。人が「動く」ことで土地の空気感がごろっと変わってしまう……今はそれを目の当りにしているところです。
それから、ここには様々な人種や宗教の人たち、職業の人たちがいて、お互いにお互いのことを尊重しながら暮らしているように見えるのも印象的です。規模は違えどもミックスカルチャーという点では長崎もまた似たような歴史を持っているわけで、様々な要素の混ざり合う土地だけのもつ独特の気配やエネルギーこそが長崎の誇るべきところなのかもしれないと最近では感じています。近所には取り立てて有名な店や特別な何かがあるわけでもないのですが、エネルギッシュで素敵な人たちの集うこのまちで生活することは間違いなく楽しいものです。
そんなまちの風景を、毎日バスの2階から眺めながら学校に行っています。
天気がよいと公園でみんな気持ちよさそうに寝転がったり、飲んだり食べたり。自分の半径数メートル内を最高に楽しい空間にして過ごしています。その度に「自分たちの暮らしは自分でつくる」という言葉を思い出すのです。まずは自分のまわりから、しあわせ感を高めていこうと。
次回、ナガサキリンネで会える日を楽しみにしています。
わたしたちの暮らす世界を、未来をもっともっと面白く楽しくしていけたらいいですね。
たくさんの愛を込めて、
宮崎友理子
2012.08.05
Yuriko Miyazaki
http://www.geocities.jp/yotu55/
たちばな幼稚園(南島原市)、イラストレーターとしても活動。
2012年春から半年間イギリスロンドンに滞在中。