中原真希|陶磁工房一朶(いちだ)





ボタンをつくるワークショップを終えて



この度、ボタンをつくるワークショップにご参加頂きました113人のみなさん、また、当日ナガサキリンネ会場にお立ち寄り頂きましたみなさん、反対に、気になっていたけれど来そびれてしまったみなさん、そして、さまざまな場面でお手伝いいただきましたボランティアのみなさん、そうそう!今このページを読んで下さっているみなさんも、みなさんの好奇心が私たちを支えてくれました。ナガサキリンネに興味を持って頂きありがとうございます。


ワークショップをつくった訳:楽しみをつくる


ナガサキリンネでワークショップを担当した私は、長崎に住む「つくり手」のひとりです。普段は陶磁器をデザインしたり実際にそれらを制作したりしています。そんな私の小さい頃の遊びといえば、「ものをつくる」ことでした。「つくる時間」や「つくる場」、とりわけ「アイデアを形にする過程」が好きで、それは今でも変わりません。おまけに、「ものづくり」は私にたくさんの縁を運んできてくれました。人見知り(誰も信じてはくれませんが)の私が、たくさんの人と話ができるようになったのも、「ものづくり」を通して出会った世界への好奇心がきっかけだったかもしれません。「創造の楽しみ」に加え、「歴史や文化」「素材や道具のこと」…ものにまつわる「ものごと」を知れば知るほどその楽しみは増し、その先に広がる世界は理屈抜きで私をワクワクさせてくれます。そんな気持ちをみなさんにもおすそわけしたくて、私はワークショップを企画することにしました。


113人の職人をつくる?!


たくさんのことを伝えたかったにも関わらず、実際のワークショップの内容は体験されたみなさんもご承知のとおり、はずかしいほど単純ですが「1時間で磁器製のボタンを5個つくること」にしました。もしかしたら、作業時間そのものは10分もあれば充分だったかもしれません。みなさんには簡単な素材(磁器)の説明と、つくり方の例をいくつか紹介して制作に入って頂きましたが、ここに私がひとつだけ工夫した点がありました。それは「いくつ制作しても良いですよ、最後にその中から自分自身のベスト5個を選んで作品にします」という言葉を添えたことです。この言葉によって、みなさんに1時間の制限時間と多めにお渡しした素材を「めいいっぱい使うスイッチ」が入りました。初めて磁器の粘土に触れた方も多かったと思いますが、みなさんが試行錯誤(と呼べばちょっと格好よいでしょう?こちら失敗とも言い変えることができます)する中で、素材の特性をつかみ、生かし、自身の想像力を発揮しながら、時間を経るごとに着実に上手くなっていく様子を目の当たりにしながら、私は気が付きました。私は図らずも「113人の職人をつくる」ことに成功してしまったのです。


ナガサキリンネをつくった訳:場をつくる


小規模で活動しているクラフト作家、または職人が生涯つくることができるものの数はいったいどのぐらいあるでしょう。そのつくり手が生涯に出会える人はいったい何人いるでしょう。ナガサキリンネを作った私たちには「つくり手」と「つなぎ手」と「つかい手」が出会う場をつくることの「必要」がありました。縁あって出会った「今ここ」に生きている私たちが、みなさんと「直接会う」ことによって伝えられることに、なぜだか自信がありました。ものごとを「選択」するために必要なことは「知る」ことだと私は考えます。だから、つくり手として正しく「伝える」場が必要だと考えました。「ナガサキリンネ」をそう言った場にしたいと考えました。しかし、よく考えたらその一瞬ですべてを伝えることなんてできませんよね。私は最近「知る」ための「きっかけをつくる」こと、それだけで充分なのかもしれないと思うようになりました。私たちはあくまでも選択肢のひとつに過ぎません。どうぞみなさん、私は実際に見ることをおすすめします。そして、自分が素敵だと思うものを、丁寧に作られていることを感じるものを、まずは家に連れて帰ってみませんか?そうして身の回りに置いて、味わうように使ってみませんか?
 
自分のカン(感・勘)を信じる


2012.08.01

  陶磁工房一朶(いちだ) 中原真希